1/2ページ目 「懐かしいなぁ。この時期はいつも金木犀の香りがしたよね」 「そうそう。地面に落ちた花を持って帰ったりもしたわ」 成人してからしばらく経つのに、その瞳の輝きはカードゲームに夢中になっていた頃と変わっていない。夢見る力を持つ、眩しい瞳。 とりとめのない話をしながらふたりで歩いた帰り道。ぎこちなく手をつないでみたり、時には思い切って顔を近付けたり。私に……私たちにとって金木犀の香りは、そんな甘酸っぱい想い出を蘇らせるもの。 「ねえ、タカト」 「何?」 「どうして今日、ここに来たかわかる?」 「…………」 人生の半分以上一緒にいるんだもん。この金木犀のように変わらない君が、何を考えているかくらいわかるよ。 「樹莉」 いつもの穏やかなそれとは違う、鋭さと強さを宿した瞳が射貫くように私を捕らえる。 「僕、ギルモンたちをただ待っているなんてしたくない。何ができるかわからないけど、僕にできることをしたいんだ」 「……うん、知ってた」 「え……?」 「私、待ってるから。行ってきて」 「いいの? こんな――」 「その代わり、絶対帰ってきてね。ずっと待ってるから」 大切な人を失う恐怖は今もある。それでも彼を信じたい、前に進みたい気持ちもあって。 「ありがとう、樹莉」 大好きな君との想い出の場所で、前に進む約束をしたいと思っていた。君の願いは、私の願いでもあったから。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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