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個人授業
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少女は真剣な眼差しで便箋の文字とにらめっこをしながら、便箋に書かれたそれとは異なる文字をノートに綴っていく。時々別の便箋と前のページを見比べて、ひと文字ひと文字を確実に訳す。
そんな彼女に見惚れたように、青年は優しい眼差しを向けた。

「もう随分覚えたんじゃないか? 訳すのが速くなったな」

「そうかなぁ? あんまり自信ないよ?」

「自信がないのは俺の方だ……」

小さく息を吐いて、青年は自分の手元に視線を落とす。彼の手元の便箋には、少女がノートに書いているそれと同じ文字が綴られている。

「ご、ごめんね。日本の文字ってひらがなとカタカナと漢字があるからややこしいよね……」

「ヒカルが謝る必要はない。ニホンの文字は興味深いな」

青年の返答にほっとした様子を少しだけ見せて、少女は翻訳を再開した。
その様子を見つめながら、青年はこのやり取りの始まりとなった時の事を回想する。


『……文通しないか?』

頬を染めて、彼女はそう尋ねた。互いの国の文字も読めないのにどうするのかと問い返した彼に、いかにも彼女らしい答えが返ってきた。

『目標があった方がモチベーションも上がるし、私はランティスが書いた手紙を持っていたいから…………ダメか?』

我が儘など滅多に言わない彼女の愛らしいおねだりと理由に彼が否というはずもなく、少々変わった文通が始まった。
最初は見様見真似で手紙の文字を書き写し、内容を読んでもらっては翻訳していった。何度もそれを続けているうちに少しずつ文字を覚えていったが、同じ音でも綴りや意味が異なる日本語はややこしく、翻訳にも時間がかかっていた。
そんな青年を励ますように少女は微笑む。

「私たちの世界でもね、日本語は難しいって言われてるんだ。だからランティスがそんなに気に病む事ないよ、ね?」

そっと握られた手を握り返し、青年も笑みを浮かべる。

「ありがとう、ヒカル」

「どう致しまして」

どちらともなく唇を重ね、ふたりきりの授業を再開した。
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