1/4ページ目 「食べないの?」 ゆっくり首を振ってそれを口に含む。飲み込んでから、彼はぽつりと口を開いた。 「もう15年になるんだな……」 「そうね……」 小学生だった私たち。共にサッカーボールを追いかけていた、ボーイッシュだった私と、結構無鉄砲だった太一。 今こうして一緒にいるなんて、あの頃の私たちは想像もしていなかった。 「でもどうして苺見ながら考え込んでたの?」 「苺っていちとごで15の語呂になると思ってさ」 「早いわよね。ここまで来るのは簡単じゃなかったけど、それも全部……大切な想い出」 「今、幸せか?」 「ええ。太一は?」 「俺も幸せだ」 少し膨らんだお腹に、太一の手がそっと触れる。 「空とふたりでお前を幸せにするから、元気に生まれてきてくれよ」 まだ見ぬ我が子にそう話しかける太一は、ほんの少しだけど父親の顔になっている。私も母親の顔になっているのかしら? 「あ!」 「今、動いたのか?」 「返事をしたのかもしれないわね」 あの夏がなかったら、私たちはただの幼なじみだったと思う。 永くて短い冒険のなかで大切なものを見つけ、いつも傍にいた人が大切なひとになった。 「空、ありがとう」 「私こそ、ありがとう」 15年経っても、ううん、きっとこれからもずっと色褪せない宝石のようにきらめいているあの夏の日。 悩んだり泣いたり失ったり……辛くて悲しい事もたくさんあったけど、忘れたくない大切な想い出たち。 これからの15年に何があるのかはわからない。でも、15年後もこんな風に穏やかな日々を過ごしていたい。 あの夏の日のように白く輝く蝶がひらひらと飛んで行った。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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