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Valentine 2015
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たかがバレンタイン。されどバレンタイン。
そういう行事があるのなら、お菓子業界の策略だろうと受験期だろうと、贈りたくなってしまうのは彼女も同じだった。

(でも……迷惑だったら、どうしよう……)
「光さん」
「わあっ!」
考え込んでいたところに声をかけられ、光は飛び上がった。
「あ、風ちゃんか。おはよう」
「おはようございます。考え事ですか?」
「うん、まあ……」
何を考えていたかまでは恥ずかしくて言えない。それに気付いているのかいないのか、風はさらりと今日のことを口にした。
「イーグル先生は、今年も大変そうですわね」
「そう、だね」
愛想も人柄もいいイーグルは、毎年大量にチョコレートをもらう。「ひとりひとりにお返しできなくて申し訳ないんですが……」と苦笑していたが、甘党の彼は贈られたお菓子を喜んで食べていた。光たちも日頃の感謝の意味で贈っているが、生徒の中には本命チョコを贈る者も少なからずいる。直接渡せずに、職員室の机に置いたり、こっそりロッカーに入れていく者もいるらしい。


朝の教室にも、いつもと異なるざわめきがあった。卒業式こそまだだが、年明けからは自由登校になっているため、学校に来ていない生徒もいる。また、普段は学校に来ていても、入試で来ない者もいる。にもかかわらず、今日はずいぶん賑やかだ。
「おはよう〜」
「おはよう」
「おはようございます」
「はい、友チョコ」
「ありがとう。私のもどうぞ」
「ありがとうございます。これは私から」
「ありがとう」


毎週、この曜日は数学を勉強する生徒のために午後の授業も設けられている。
授業が終わると数人の女子が慌ただしく飛び出した。それを深く気に留めず、光はイーグルにチョコを渡すため、風と連れ立って職員室に向かった。入試でいない海からのチョコがないと残念がられるかもしれない、などと想像して笑いながら。
帰り道、昇降口の近くで、先ほどの少女たちが図書室の方から駆けてきたのが見えた。何やら楽しげなその様子と微かに聞こえてきた彼の名前に、光の心は朝の教室よりもざわめき始める。
「光さん?」
「……ごめん、風ちゃん。先行ってて」
すぐさま図書室に駆け出した。イーグルほどではないが、ランティスも人気が高い。彼がいくつチョコをもらったのか、それをどうするのかはわからない。わからないから、心が落ち着かなくなる。


「こ、こんにちは……」
「ヒカルか」
微かに甘い香りが漂ってきた。いつも通りカウンターの向こうにいる彼は、その甘い香りに辟易しているようだった。光相手だと疲れもやれやれといった雰囲気も隠さないらしい。
「あの……これ、甘くないやつだから……」
彼の瞳のような青と白のストライプの紙に包まれた丸い箱をそっと差し出す。いかにも、という感じのものを避けてシンプルなものにしたし、彼は本命としては受け取ってくれないだろう。それなら本命でなくてもいい。打ち明けられない想いを閉じ込めたまま、日頃の感謝の気持ちとして受け取ってもらえれば。

「ありがとう」

そう言った彼の笑顔が優しくて。渡した時に触れた手が暖かくて。それだけで、光は嬉しくなる。
「こちらこそ、いつもありがとう。それじゃ」
「ああ」
その笑顔が自分だけに向けられることを、少女はまだ知らない。
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