event
キスの日 2015
1/3ページ目
――彼だけに見せる、特別な唇は恋の色――

「今度の日曜?」
「ああ。来てくれるか?」
 久しぶりに会った蛍君から、コンサートに誘われた。しばらく顔も見ていなかったせいか、自分の好きなことで充実しているからか、かっこよく見える。
「他のみんなは?」
「みんなって?」
「光希さんたちも誘ったの?」
「いや、最近忙しくて会ってないし、それぞれ予定もあるだろ」
「じゃ、どうしてすずのことは誘ってくれるの?」
 ここで蛍君は、びっくりするくらい優しい笑顔をした。光希さんになら見せたことがあるかもしれない。そんな笑顔。
「嫌か?」
 そんな優しい笑顔で、そんな甘い声で聞かないでよ。変にドキドキするじゃない。
「べ、別に、嫌じゃないけど……」
「なら、来てくれるな?」
「す、すずのために弾いてくれるなら、行ってあげてもいいわよ?」
「約束だぞ?」
「えっ……?」
「待ってる」
 ぽんと軽く頭を撫でて、蛍君は行ってしまった。日時と会場までの地図が載っている紙を残して。

 家に帰ってからも、笑顔を思い出す度にドキドキして顔が熱い。蛍君よりも遊やマイケルの方がずっとキレイなのに。

――俺もお前も、イヴなのにひとりぼっち。仲間だろ?
 閉店後のLIZARDで、気を遣ってくれたことがあった。あの頃は遊に夢中だったから、そこまで深く考えなかったけど、蛍君は誰にでも優しいわけじゃない。あんなに光希さんのことが好きだったのに、あたしに優しくしてくれたのはどうしてなんだろう?

 答えが出ない中、コスメの仕事の日が来た。恋した相手だけに見せる、可愛いピンクのリップ(珍しいことに、ハケでもスティックでもない)。この仕事をすれば蛍君に対する気持ちの答えは出るのかな?
「すずちゃん、ちょっといい?」
「はい?」
「今、好きな子いる?」
「え……?」
 撮影が進まないと思ったら、突然こんな話を振られた。自分で自分の気持ちが分からないから、答えられない。
「気になる人は?」
「…………います」
「その人のことを考えてみて。すずちゃんが素敵だなって思える姿を」
 素敵だと思える蛍君の姿。やっぱり、ピアノを弾いている姿かな。ハロウィンパーティやコンクールの時じゃなくて、イヴにお客さんのいないLIZARDであたしのために弾いてくれた時の。
「そうそう、その表情。今度はちょっとだけ左向いて。今のすずちゃん、すごくいい顔してる!」
 恋するリップにぴったりってことは、やっぱり蛍君が好きなのかな? 蛍君が光希さんとふたりきりでいるところを想像したら、絶対にないって分かっててももやもやした気持ちになる。光希さんと遊が抱き合ってるところを見ても、納得できなかっただけでこんな気持ちにはならなかったのに。
「すずちゃん」
「は、はい!」
「今は他の人のことを考えないで。その人のことだけ考えて」
「はい……」
 他の人には見せない(と思う)優しい笑顔、頭を撫でてくれた暖かい手。耳に残る甘い声。また心臓がドキドキしてる。やっぱり、蛍君が好きなんだ。

 日曜日、せっかくだからともらってしまったリップを塗ってコンサートに行った。久しぶりに聞くピアノの音色は相変わらず素敵だけど、十八番であるはずの「For You」は弾かなかった。蛍君本人の作曲で人気もあるのに。

「お疲れ様」
「ありがとう」
 多分だけど疲れているのに、蛍君はこの前と同じ笑顔を見せてくれた。好きって自覚してるし、楽屋でふたりきりだから、街中で話すよりもドキドキする。リップに気付いてくれるといいな。
なんて考えていたら、突然額を小突かれた。
「なっ、何?」
「最近、頑張り過ぎじゃないのか?」
「え……?」
「休みの日くらい普通にしろよな」
 彼の視線を追って机の上に目を向けると、表紙にリップを付けたあたしが載っている雑誌。どうして蛍君が持ってるんだろう?

「俺が今日のコンサートに誘ったのは人気モデルじゃない。佐久間すずっていうひとりの女の子だ」

 告げられた言葉の意味が分からなくて、反応に困る。人気モデルじゃなくてひとりの女の子って、どういうこと?
 頬に触れた手が下がり、綺麗な指が顎を掬い上げる。
「俺には素を見せてくれてると思ってたんだぞ?」
「ちょ、ちょっと待って! あたし、オフの日でもファッションには気を付けてるけど、蛍君と逢わない時にこのリップは使わないよ?」
「…………どういうことだ?」
 表紙見ただけで中身は知らないの? 鋭いんだか鈍いんだか。
「蛍君にしか見せないってこと」
 勢いで言い切って爪先立ちになった。ここまで言えば分かるでしょ?

「ありがとう」

 照れくさそうな笑顔で、蛍君は顔を近付けてくれた。

「順番、逆になっちまったな」
「順番?」
「好きだ」
「蛍君……」
「蛍でいい」
「昔は嫌がったのに」
「君付けの方が良かったのか?」
「ううん。嬉しいよ、蛍」
 期待していたのとはちょっと違うけど、想いが通じてすごく幸せ。
「大好き」
 恋するリップにもらった勇気のお陰で、両想いになれた。
[指定ページを開く]

次n→ 

<<重要なお知らせ>>

@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
@peps!・Chip!!は、2024年5月末をもってサービスを終了させていただきます。
詳しくは
@peps!サービス終了のお知らせ
Chip!!サービス終了のお知らせ
をご確認ください。



w友達に教えるw
[ホムペ作成][新着記事]
[編集]
無料ホームページ作成は@peps!
無料ホムペ素材も超充実ァ