1/2ページ目 ぽすんとベッドに身を投げたまま、何かをする気にはなれなかった。髪を撫でてくれる大きな手も、低く優しい声も、恋しくて仕方がない。逢えない寂しさが雫となって眦を伝い始めた時、ノックの音で現実に戻された。 「はい……」 扉を開けると正面に人の顔はなく、大きな杖が目に入った。 「クレフ? どうしたんだ?」 「……今、大丈夫か?」 「? うん、いいよ」 泣いていたことに触れられなかったことにほっとしつつ、彼女はクレフを部屋に招き入れた。 「ヒカル、鏡の前に立ってくれ」 「こう?」 部屋に備え付けられた鏡に自分の姿が映る。目元が僅かに赤くなっていた。 「上手くいくかは分からんが……」 クレフがとん、と床を杖で突くと鏡面に波紋が広がった。 「え……?」 『ヒカル』 波紋が収まると、そこには逢いたくてたまらないひとの姿があった。 「ランティス? どうして……?」 オートザムに行っている筈の彼が鏡に現れれば誰でも驚くだろう。掌を重ねても鏡面の冷たさが手に届く。 『お前に逢いたくて、導師に無理を言った』 「しかし、私の力でも長くは持たん。貴重な時間を無駄にするなよ」 そう言い残して、クレフは部屋を出て行った。そんな風に言われてしまえば、1秒でも惜しくなる。もっと髪を整えておけばよかったと、ベッドに飛び込んだことを少しばかり後悔した。 「ありがとう。私も逢いたかったけど、仕事だから無理言えなかった……」 『今度はちゃんとセフィーロで待ってる』 「うん」 直接手の温もりを感じられなくても、心が彼の温もりを受け取っていた。単純と言われてもいい。こんな風に話ができるだけでも嬉しかった。 「あっ……」 ランティスの姿が霞む。彼女は慌てて言葉を紡いだ。 「ありがとう、ランティス。大好き!」 『俺もだ』 鏡越しにそっと唇を重ねる。閉じた瞼に眩い光が伝わると、鏡にはもう彼の姿はなかった。 (ありがとう、ランティス。ありがとう、クレフ) 思いがけない温もりと幸せに包まれながら、彼女は部屋を後にした。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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