1/2ページ目 国が違えば文化も違う。たまたま知ったその行事も海を挟んだ隣国のものだった。自国になじみがなくとも知ってしまえば気になるわけで。 ウィンドウショッピングを楽しみつつ、美朱はあらゆるアクセサリーを注意深く観察していた。 「何か欲しいの、ある?」 「んー……」 これぞと思うものに出会えない。安易に選びたくないと思っているうちに時間だけが過ぎていった。 「柳宿、ごめんね」 「いいのよ。納得するまで付き合うわ」 「ありがとう」 それでも焦りは着実に募っていく。青々としていた空は少しずつ橙に染まり始めていた。何日も考えて計画したことが、このままでは水の泡になってしまう。 「そろそろ教えてくれない? 今日が何の日か。誕生日でも記念日でもないと思うんだけど」 「うん」 彼は女心をよく分かっている。例えば女の子が初めて手を繋いだ日やキスをした日なども記念日として考えることを。例えば好きな人に好きだと言われることがどれほど嬉しいことなのかを。 「なるほどね」 韓国では今日、恋人同士が銀製品を贈り合う日だと話せば苦笑いを返された。 「最初からそう言ってくれればよかったのに」 「なんか言いにくくて……」 女心を分かっているだけあって、自分よりも女子力は高いのだ。普段あまり女の子らしいことをしないからか、妙な恥ずかしさがあった。 「バレンタインの時は普通だったじゃない」 「昔からお兄ちゃんにあげてたもん」 「……それ、嫌ね」 「え……?」 「あたしはあんたのお兄ちゃんじゃないのよ」 僅かに不機嫌そうなその瞳にどきりと心臓が跳ねた。こんな時、彼が男なのだと強く実感する。 「分かってる。柳宿はあたしの……彼氏だもん」 絡めた腕は細身ながらどこかたくましく、力強ささえ感じる。どんな時でもこの腕は美朱を護ってくれていた。 「あ……」 不思議な力に誘われたかのように辿り着いた店先に飾られている銀のアクセサリーが目に入った。ペアなのに違うデザインのそれから何故か目が離せない。彼女の思考も読み取ったように、柳宿は店に入って片方のネックレスを美朱に宛がった。 「うん、これいいわね。よく似合ってる」 「そう? 柳宿は……かっこいいよ」 「じゃ、これにしない?」 「うん!」 会計を済ませ、改めて相手に贈り合う。美朱にはハートの中に11枚のハートがあるネックレスが。柳宿には三日月のような形のネックレスが掛けられた。ふたりがネックレスの伝説を知るのはもう少し後の話。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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