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Valentine 2019
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 手袋をはめていても冷たい風で強張るのに、緊張で掌に変な汗が滲む。インターホンを押す時なんて震えまで出ちゃって、2、3回チャイムの音が響いた。
「いらっしゃい。寒かったでしょ? 上がって」
「お、お邪魔します……」

 柳宿の部屋には何度か来たことがあるけど、最近は爽やかで男っぽい感じの香りがする。付き合い始めた頃は女の子らしい甘い香りだったのに、香りが変わったことで男の子なんだって前より意識しちゃう。
 でもずっとはどきどきしてられない。今日は両想いになって初めてのバレンタインなんだし、喜んでもらえるように頑張らなきゃ。
「柳宿、キッチン借りていい?」
「ダーメ」
「え……?」
 予想外の返答に固まっていると、両手をすっと包まれてそのまま柳宿の口元に――。柔らかい感触がした瞬間、びくっと体が震えた。
「こんなに緊張してるのに包丁持って、怪我でもしたらどうするの? 解れるまでこのままでいなさい」
 口調は軽やかなのにその瞳は真剣で、あたしのことを大切にしてくれているのが分かる。強張っていた手が優しくさすられて解れていく。あんなに緊張してたのが嘘みたい。
「そろそろ、いいかしら?」
「うん……ありがとう」
 ちょっと離れただけで柳宿の手が恋しくなったのは、内緒にしておこう。

 牛乳を温める横でチョコレートを刻む。この苦い香り、自分で食べるなら絶対買わないだろうなぁ。チョコと牛乳を馴染ませてる間、お皿に一口大に切ったカステラやマシュマロ、フルーツを並べた。フォークを添えて先に運び、チョコが綺麗に混ざったら出来上がり。
「柳宿、お待たせ」
 鍋敷きの上にチョコの入ったお鍋を置く。気に入ってもらえるかどうか気になって、また緊張してきた。そんなあたしをよそに柳宿はフォークを手に取る。
「いただきます」
 カステラにチョコを絡めて口に運ぶ仕草も綺麗。あんまり見てると食べにくいかもしれないけど、気になって結局ずっと見てた。
「ありがとう。おいしいわ」
「本当?」
 まだ安心できないあたしに、彼はにっこり笑ってこう言った。
「はい、あーん」
 目の前にはチョコの絡んだイチゴが差し出されて、その意味が分かった途端に恥ずかしくて頬が熱くなる。恥ずかしいけど、ただのイチゴがすごくおいしそうに見える。ぎゅっと目を閉じて口を開けると、苦いチョコの味がした。噛みしめると甘酸っぱさが混じって広がる。
「…………甘い」
「ね、おいしいでしょ?」
「うん……」
 優しく抱きしめられて頭を撫でられる。緊張が解けて、どっと疲れが出てきた。
「美朱、大好きよ」
「あたしも……ん」
 触れ合った唇からはほんの少しビターチョコの味がしたのに、この上なく甘かった。
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