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Christmas 2019
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 しんしんと降る雪。ホワイトクリスマス。などと言えば聞こえはいい。聞こえだけは。

「さみっ!」
「こりゃ、酒飲んでさっさと寝るに限るな」
 吐息が白く染まる中、珠呂と敬は夜の街をゆっくりと歩き出した。テレビで見た雪国程も降り積もりはせず、かと言ってすぐに溶けるくらい少なくもない。おまけに交通機関は麻痺するし、せっかく積もった雪は都会故に踏み荒らされて半ば地面が見えているしと総じていいことがなかった。

「…………」
「…………」
 手がかじかみそうな寒気の中、足元に気を付けながら歩く。慣れない雪道での運転は危ないからと釘を刺され、今日ばかりは敬も愛車を車庫に置いてきた。今日の収録現場が比較的近かったことが救いか。
 それでも温暖な地で育った身にこの寒さは応える。敬の言う通り、酒の力を借りて温まりたい。無心になってひたすら足を動かした。

「――あ」
「珠呂っ!」
 うっすらと雪を被っていた何かに足を取られ、視界が回る。思わず目を閉じて身構えた珠呂を包み込んだのは濡れた地面ではなかった。
「……?」
「ったく、気ィ付けろよな」
「! あ、わり……」
 敬に抱き止められたと気付いた途端、心臓が早鐘を打ち始める。ほんの少し前まで寒さに参っていたのが嘘のように、顔が熱い。
「ほら、行くぞ」
 そう言うや否や、敬は掴んだ珠呂の手を自分のポケットに入れて歩き出した。大きな手からじんわりと温もりが伝わってくる。
(昔も、こんなことがあったな……)
 幼い頃の光景が脳裏を過ぎり、珠呂は遠慮がちに自分の手を包むそれを握り返した。あの頃から大好きだったけれど、いつしかその「好き」は特別なものへと変化していった。彼はどうなのだろう。今でも自分は手のかかる従弟なのだろうか。或いは――。

「じゃ、体冷やすなよ」
 ふと気付くと珠呂は自室の前に立っており、寒々とした空気の中へ敬に包み込まれていた手が放り出された。歩きにくい雪道でも、敬と手を繋いでいられるならそれだけで幸せで。すぐ近くに住んでいるのに、今までも部屋は別だったのに、離れるのがこんなにも寂しい。
「っ……」
「…………珠呂」
「ご、ごめん!」
 服の裾を引っ張って引き止めるなんて、子どものようだと思われただろうか。慌てて離した手が捕らわれ、目線が重なる。そうしてどれくらい見つめ合っただろう。きりりとした瞳がおかしそうに細まり、笑いを堪えるような声がした。声は必死に抑えているものの、その顔はどう見ても笑っている。
 顔から火が出るとはまさに今の状況を指すのだろう。
「外で笑い転げて風邪引いても知らねえからな!」
 掴まれた手を振り払い、部屋の鍵を開ける。帰り道でひとり浮かれたことさえもバカらしくなってきた。
「珠呂」
 肩に絡む腕に引き寄せられ振り返った刹那、額に舞い降りたのは柔らかな温もり。
「悪かった」
 敬はもう笑ってはいなくて、優しくも真剣な瞳に珠呂を映して。鼓動が跳ね上がる。強く、悔しいくらいに強く。自分の瞳にも今、彼が映っているのだろうか。否、敬しか映っていない。魅せられて動けない珠呂へ、ゆっくりと敬の手が伸ばされる。
 つと顎を掬い上げた指先は頬を辿り、軽く珠呂の髪を乱した。
「おやすみ」
 普段MCなどで観客に向けるものよりはるかに甘い声で囁き、敬は自分の部屋へと足を向けた。


 呆然と天井を見上げたまま、どれくらいの時が流れただろう。2,3時間か。はたまた10分も経っていないのか。
 冷えた空気の中、敬の唇が触れた箇所から熱が生まれているように熱い。どんな気持ちで彼はあんなことをしたのだろう。額の熱は消えそうにないのに、それに心地よささえ感じている自分がいる。

「ずるい……男(ヤツ)」
 明日逢ったら、同じことをしてやろうか。お前の所為で熱くて仕方ないと。
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