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Valentine 2020
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 バレンタインはある意味戦いだという言葉を聞いたことがある。聞いた当時は「ふうん」と聞き流していたが、今になってその言葉の意味がよくわかった。同じ校舎内にいても年も教室も離れているし、こんな日は逢うことすら難しい。最初に渡すなんて夢のまた夢だ。
 朝の登校後、昼休みと探しても見つけられず、美朱は何度目かのため息をついた。せっかくのイベントなのだからやはり当日に渡したい。どれだけこちらが願っても逢えなければ意味がないというのに。
 放課後になってから、かれこれ30分は歩き回っただろうか。気が付けば教室から随分離れた場所――音楽室の前にいた。ここで逢えなければもう諦めよう。そんな気さえする中、扉に手をかける。
「え……?」
「あら……美朱じゃない」
 開けようと思ったその時、内側から扉が開かれ、探し回っていた人物が顔を出した。驚きと焦燥で頭が真っ白になる。早く渡さなければ、そんな考えとは裏腹に手も口も動かない。彼女の手元につと目を向けると、柳宿は「そういうこと」と意味深に呟いた。
「頑張りなさいよ」
 ぽんと軽く頭を撫でて立ち去ろうとする彼の袖を、美朱は慌てて掴んだ。

「こ、これ……受け取ってください!」

 上手く言葉にできたかもわからない。そっと紙袋に触れた手は、何かを確かめるようにぎこちない感じがした。
「これ…………本命、でいいのかしら?」
 こちらを見つめる大きな双眸は期待と不安が混じった色合いで。小さく頷くだけで、精一杯だった。
「ありがとう。好きよ、美朱」
「あたしも、あたしも柳宿が好き」
 漸く逢えたことと渡せたことへの安堵からか、力が抜けてもたれかかってしまう。離れようにも背中に回った手は思いの外力強く、美朱はそのまま身を預けた。

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