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キスの日 2020
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物陰で

 朝家を出ると、いつも目に入る陽のような淡い髪色。対照的な深い紫の瞳が梓を優しく映す。
「おはようございます、梓くん」
「お、おはようございます」
 秋兵が迎えに来てくれるようになって暫く経つのに、梓はなかなかその光景に慣れなかった。朝から逢えるのも、一緒に登校できるのも勿論嬉しい。
 彼は迎えに来てくれるようになって以来、梓を待たせたことがない。それが嬉しい反面、申し訳なさも感じていた。
「秋兵さん」
「はい」
「あの……いつもありがとうございます」
「いえ、僕が好きでしていることですから」

 さらりとそんなことを言ってのけるのだからずるい。ますます好きになってしまう。
「秋兵さんは、ずるいです」
「え?」
「私ばかり嬉しいことしてもらって、私も何か返したいのに」
「梓くん……」
 俯いた梓の頬に手を添え、目線を合わせるように秋兵が屈む。
「では、ひとつお願いを聞いていただけますか?」
「? はい」
 不意に引き寄せられ、彼のぬくもりが伝わってくる。朝の静かな道に、自分の鼓動が大きく響いた気がした。
「好きですよ、梓」
「え……」
 熱い眼差しに囚われて目を逸らせない。前髪が額をくすぐり、吐息が触れ合う。
 早鐘を打ち始めた心臓を何とか宥めながら、おずおずと彼を抱き返す。瞼を閉じた次の瞬間、唇に柔らかなぬくもりが触れた。

 唇が離れるとより強く抱きしめられる。
(秋兵さんも、どきどきしてる……?)
「ありがとうございます」
「い、いえ……」
 名残惜しそうに離れた手が梓のそれを取り、歩き出す。繋いだ手から微かに伝わる鼓動にまたひとつ、胸が高鳴った。
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