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WhiteDay 2020
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「ね、ねえ……柳宿」
「ん〜?」
「この座り方、どうにかならない?」
「あら、嫌なの?」
「嫌……じゃないけど……」
 純粋に恥ずかしい。膝の上に座るなど、子どものようだ。いや、彼にとってはそうなのだろうか。

 ぷにっ。

 白い指先が頬を摘んだかと思えば撫でられる。頬の触り心地がそんなにいいのか?
「あれからひと月経つのに、まだ浮かれてるのよ」
「浮かれてる? なんで?」
「好きな子にチョコもらって、喜ばない男なんていないでしょ」
 ふわり。頬に触れたものが何か、閉じたピアノの蓋に映る自分たちの姿から振り返るまでもなくわかった。赤くなった美朱を、彼は更に強く抱きしめる。
(あ……柳宿の、心臓の音?)
 背中に伝わる鼓動は少しだけ速い。彼女は思い切って、心地よい音を刻むそこに身を預けた。
 浮かれているのは自分も同じだ。テストが終わった今、漸く彼とゆっくり過ごせると思ったのだから。

「美朱。先月はありがとう」
 差し出された包みは小さくて軽い。ハンカチだろうか。
「ありがとう。開けてもいい?」
「もちろん」
 そっと開くと、淡い菫色が顔を覗かせた。触り心地のいい2本のリボンは、大好きな柳宿の色。
「あたしね、自分で思ってた以上に美朱が好きみたい」
「柳宿……」
「周りにも恋人同士だってわかってもらいたいの」
 紡がれる言葉のひとつひとつが嬉しくて、美朱は愛用の赤いリボンを解いた。
「これ、着けてくれる?」
「ええ」
 緊張しているのだろうか。新しいリボンを結ぶ手から、微かに震えが伝わってくる。
 髪型も結び方も変わっていないのに、先程より少し大人っぽく見えるのは彼の色だからか。
「あたしも、柳宿が大好きだよ」
 振り返って頬に口付ければ、不意打ちに弱いのか、みるみるうちに赤く染まっていった。

「あたしの方が好きよ」
 どこか拗ねたように呟いた唇は、証拠と言わんばかりに美朱のそれを塞いだ。
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