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Valentine 2022
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 最近通学路にできた、小さなパティスリー。窓辺に飾られた可愛らしいチョコレートに目を奪われたのは先月の末頃だったか。

 バレンタイン当日の帰り道、タケルもヒカリもそれぞれ紙袋を携えていた。最近はタケル宛ての本命チョコが減っており(ただし義理は少し増えている)、今年はヒカリの紙袋の方が中身が僅かに多い。友チョコを交換する女子は少なくないし、彼女に逆チョコを贈る男子もいるのだから不思議ではない。
 それだけもらってはいるものの、やはり件のパティスリーの前まで来ると、ヒカリの目線はその窓辺へと向かう。ひと目で気になったそのチョコレートを買う余裕はなかった。タケルへの贈り物に手は抜きたくなかったし、手作りとは言え友人たちに贈る分も含めば値段はそれなりに張る。材料費やラッピング代だけで手一杯だった。
「ちょっと待ってて」
「えっ?」
 是とも否とも返さぬうちに、タケルは店に入っていった。来店を告げるベルの音がやけに大きく響く。5分と経たずに戻ってきた彼の手元には小さな紙袋。隙間から赤い包装紙が顔を覗かせている。
「ハッピーバレンタイン、ヒカリちゃん」
 反射的に受け取った包みは、間違いなく彼女が気にしていたチョコレートのそれで。
「どうして……?」
「通りかかる度に見てたから、ほしいんだろうなって」
「タケル君、よく見てるのね」
「ヒカリちゃんのことだからね」
「ありがとう」
 包みも中のチョコレートも小さいけれど、ヒカリが今日もらったどんな贈り物より気持ちの込められたチョコレート。大好きなタケルからの贈り物。

「私、ホワイトデーも頑張るね!」
「えっ? 僕、今日もらったんだけど?」
 戸惑うタケルの頬に、背伸びしてほんの少しだけ触れる。
「嬉しいって気持ち、伝えたいの」
 後から恥ずかしくなり、熱を持ち始めた頬を隠すように早足で歩き出す。
「私ってすごく愛されてるよね」
「今頃気付いたの?」
「改めてそう思ったの。だから私もタケル君が大好きって伝えたい」
「……期待してるよ」
 そう言ったタケルの頬が赤いのは夕日のせいではないのだろう。小さな紙袋を潰さないように抱え、ヒカリはそっと彼に身を寄せた。
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