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11周年お礼
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「月麿さん、お先でした」
「ああ」
 湯上がりの彼女が髪を拭きながら俺に声を掛ける。石鹸のような清楚な香りがほのかに漂う。

 彼女は俺との暮らしをどう思っているのだろうか。少なくとも嫌ではないと思う。
 だが、俺の傍にずっとはいない。身の安全が確認出来れば離れるべきだろう。
「そうしたら、俺はまた独り……か」
 それでいいはずなのに、まだ彼女を手放したくないと、俺のものにしてしまいたいと思ってしまう。未練がましいにも程がある。


「冴?」
 居間に戻ると、課題を広げた彼女がその上で寝息を立てていた。頬に掛かる髪が呼吸の度に揺れる。
「冴、寝るなら部屋に戻れ。風邪を引くぞ」
「……ん〜…………」
 小さく身動ぎはしたが、夢の世界から帰っては来ない。頑張り屋の彼女のことだ、疲れているのだろう。
「……今日だけだ」
 自分に言い聞かせるように声に出して、彼女を抱き上げる。彼女が使っている部屋の扉を開き、布団にそっと横たえた。
 寝息と同様にその寝顔は安らかで、思わず息を吐く。うなされていないならいい。
「……だめ」
 寝返りを打ってこちらに背を向けた彼女の言葉にはっとする。俺は今、何をしようとしたんだ。彼女の髪よりすぐ上にある手を慌てて戻す。必要以上に触れないと決めただろう。
 再び寝息が聞こえることから、先の言葉は寝言だったようだ。
「おやすみ、冴」
 掌に爪を立てて触れたい衝動を抑えながら俺は彼女の部屋を出た。閉じた扉に背を預け、ずるずると座り込む。
「俺のことも、少しは警戒すべきだろう」
 無防備な寝顔が脳裏に浮かび、思わず呻いた。
 信頼されているのは素直に嬉しい。だがこうも警戒されないのは、男として意識されていないからだろう。ガオズロックに他の仲間たちと住んでいたことと、大差ないのかもしれない。
 その信頼を裏切ってはならない。俺自身からも、彼女を護ると決めたのだから。
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