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キスの日 2022
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 まだ東の空も夜の色を纏っている頃、控えめな目覚ましの音が冴を現実に呼ぶ。昨夜も腕を貸してくれた彼へ温もりを残すように身を寄せ、そっとベッドから抜け出す。

 朝食と弁当の用意をしていると思わず頬が緩む。空っぽの弁当箱を洗う時が密かな楽しみだと明かせば、彼はどんな反応をするだろう。
「冴」
 まだ少し眠そうな目をしながら起きてきた彼は、両想いになってから無防備な姿も見せるようになった。恐らく本人に自覚はないのだろうが。
「おはよ、月麿さん」
「おはよう」
 寝癖を初めて見つけた時は驚いたし、他の人が知らない彼を知った嬉しさもあった。片想いの頃から誰より彼の近くにいて、誰より彼を知っているつもりだったが、まだまだ知らないことはあるようだ。

 洗面所で身支度を整えてしゃっきりした月麿は洗濯籠片手にベランダへ向かう。今日も晴れそうだ。彼が洗濯物を干している間に冴も弁当箱の中を埋め、同時進行で朝食を盛り付ける。
 用意を終えたところで月麿が戻り、ふたりで食卓を囲む。一匹狼なのに寂しがり屋な彼が冴と過ごす時間を大切にしていると知ってからはより一層彼を愛しく感じ、その想いに応えようと思っている。

 食事と片付けが終わると、そろそろ彼の出勤時間。今日は2限からなので一緒には出ない。
「じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
 いつもは玄関で見送るだけだが、今日は思い切って背伸びをした。彼の肩を掴んでバランスを取り、顔を近付ける。
「っ……」
 唇が触れ合ったのは、ほんの一瞬。何が起こったのか気付いた彼の頬が真っ赤に染まる。
「気を付けて……」
「あ、ああ……」
 扉の開閉で当たる風が心地よい。自分からするのは慣れなくて、されるよりもずっと恥ずかしい。けれど普段は見せない照れた姿を見れたのは嬉しい。
 まだ熱い頬を押さえながら、冴は自室に戻った。
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