2/5ページ目 「行ってらっしゃい」 婚姻から早2年。ヒノエが神職のためにしばらく家を空けることになった。1年半ほど前に新熊野神社に呼ばれた時は望美も同行したが、今回はそうもいかない。 「気を付けてね」 「ああ。お前も、体を大事にな」 男性にしては華奢な手が、少し膨らんできた望美のお腹に優しく触れる。懐妊を知ってからはできるだけ家にいてくれるようになったから、彼が何日も留守にするのは随分久しぶりだった。 「……あの、ヒノエくん」 「なんだい?」 「これ、私の代わりに持っていって」 「懐かしいな」 旅と戦いの日々の中、まだはっきりヒノエを好きになる前にもらった真珠の耳飾り。気に入ったが故に普段使いはしていなかった、望美の宝物だ。 「代わりにって言ったらなんだけど……その……」 「これかい?」 皆まで言う前に差し出されたのは羽を象った銀の耳飾り。いつもヒノエの耳を彩っているものの片割れだ。 「どうしてわかったの?」 「お前のことならなんだってわかるさ。どんなに離れていても、オレの心は奥方様の傍にいるよ」 思考が読まれて恥ずかしいやら嬉しいやら、頬が熱くなっていく。耳に伝わる金属の感触はヒノエの温もりを移して少し温かい。 「望美は華やかなのが似合うけど、これはこれでいいね」 「ヒノエくん……」 両手で頬を包み込まれ、口付けられる。深くはないが軽くもない、甘くて長い口付け。 「お土産は何がいい?」 「もみじ。前に見た紅葉がすごく綺麗だったから」 「今度は3人で行きたいね」 「うん」 そろそろ出なければ予定通りに着かないだろう。名残り惜しいが彼は仕事だ。 「遠くからでもちゃんと見てるんだから、失敗しないでよ」 「当然」 片目を閉じて見せると、彼は京へと旅立った。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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