1/4ページ目 閑散とした教室に私服で鞄も持たずに入るのはなんだか変な気分だ。悪いことをしているわけではないけど、少し落ち着かない。余裕があるように見える王崎が、実は年の差を気にしていたと聞いたのはこの場所だった。意外だと思いつつ、ますます彼を好きになったように思う。 「誰もいないから当然だけど、静かだね」 「……はい」 怒ってはいないのだろうが、王崎らしからぬ硬い声音に背筋が伸びる。ついさっきまでは楽しくデートしていたのに、香穂子が無意識に気に障ることをしたのだろうか。 今日の行動を振り返っても、特段変わったことはなかった。学校に寄ってもいいかと言い出したのは王崎の方で。 「っ!」 「ごめん」 気付けば王崎の腕の中にいて、困り顔の彼に優しく見つめられていた。 「先輩?」 「おれ、余裕ないよね。年上らしくもないかな」 「余裕って? あの、私何か気に障ることでもしたんじゃあ……?」 「? もしかして怒ってるように見えた? 緊張してただけだから、気にしないで」 緊張って、何に? そう言葉にしようとしてもできなかった。熱いものがその熱を移すかのように、香穂子の唇を塞いでいた。離れてからそれが王崎の唇だと気付いて、頬が熱くなる。 「……どうして、ここに来たんですか?」 「ふたりきりになれるから。ここぞって時に邪魔されなさそうだしね」 つまり彼は最初からキスするつもりだったわけで。全くその意図を理解していなかった自分の鈍さに溜め息が出た。 「香穂ちゃん?」 「ごめんなさい。意味、わかってませんでした」 「嫌じゃなかったならいいよ。ね、もう1回してもいい?」 「っ……はい」 心持ち上を向いて目を閉じると、先程よりも優しく、柔らかな熱が触れた。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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