始まりはたった一言
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               全ては拓也のこの一言から始まった。

「女の子が誕生日にもらって喜ぶものって何だろ?」

「「…………は?」」

揃って同じ言葉を返した双子に感嘆の眼差しを向けながら拓也は話を続けた。

「いやなぁ、泉が今月誕生日だから、何かあげた方がいいかな〜って…」

「成る程」

「具体的に何を贈るか考えてるのか?」

「全く」

「うーん………あっ、拓也…」

「何だ?」

「ちょっとちょっと…」

拓也を引っ張って耳打ちで何かを話す輝一。
輝一の話に頷きながら悪戯っぽい表情を浮かべる拓也。
2人の笑顔を見て、輝ニの背を冷たいものが滑り落ちた。

「なぁ、輝ニ」

「…何だ?」

嫌な予感がして2人から少し距離を置く輝ニ。

「泉への誕生日プレゼント、お前から渡してくれないか?」

「はい?」

何故俺が?、と言外に尋ねた輝ニの問いには輝一が答えた。

「誕生日プレゼントを贈るとほら、好感度アップというか、さり気なくアピールできるというか…」

「進展のチャンスじゃん?」

絶句する輝ニを余所に、拓也と輝一の話は続く。

「やっぱり女の子だと、花とかがいいのかな?」

「かもなぁ。まあ、お菓子でも喜びそうだけどな」

「おい、拓也に輝一」

我に返った輝ニがどんどん進む話に待ったをかける。

「進展って何だよ? 何をアピールするって言うんだ?」

「え゛? 輝ニ、もしかして……自分の気持ちに気付いてない?」

「…………自覚はしてるが、何故お前が知っている?」

「見てれば分かるよ。純平ほど露骨じゃないけど」

泉がどっちを好きなのかは分かんねえけどなぁ、という拓也の相槌から察するに、少なくともこの2人は以前から知っていたらしい。
額を押さえて低く呻く輝ニにも聞こえるように、拓也は話を続ける。

「お菓子はなんとかなると思うけど、花はどうする?」

「そうだなぁ…髪の色からして、白い花とか似合いそうだけど…花言葉とか、意味がある方がいいよな」

「よし、俺が友樹と純平に連絡しとくから、2人で花屋に行ってこいよ」

「連絡って?」

「泉への誕生日プレゼント、どうするのか訊いてみる」

「分かった。ほら行くよ、輝ニ」

「俺に何をしろと?」

「見るだけでいいから」
見送る拓也に手を振って、輝一は輝ニを引きずりながら花屋へ向かった。



「いらっしゃいませー」

色とりどりの花を見ながら、泉に合う花を探す。
黄色は候補から外すとして、赤やピンク、白を見つけては泉の姿を想像する。

「輝ニ、どれがいいとか、ある?」

「特に」

「花選びも意外と難しいなぁ……」

店内をあちこち見渡している輝ニの視界に、小さな白い花が飛び込んだ。
爽やかな可愛らしい花だ。

「輝一」

「ん?」

「お前に一任していいか?」

「大丈夫だよ、料理じゃないんだから」

「お前の方が、花言葉とか詳しいだろ?」

「ってことは候補は見つけたんだ?」

「一応………」

輝ニが先の花に視線を向けると、輝一は目を輝かせた。

「スズランかぁ。いいと思うよ?」

「そうか?」

「うん。これにしよう」

花がしおれないように予約することにした。

「で、スズランの花言葉って何なんだ?」

「秘密。教えたらつまんないよ」

「そういう問題か?」

「うん、そういう問題」

結局輝ニがスズランの花言葉を知ったのは、花を渡した日の晩だった。
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