現実を見る灰かぶり
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 来客を告げるチャイムの音が、元々あった緊張を増幅させる。ゆっくりと扉を開けば、そこには見知った男の子が立っていた。
「おはよう」
「お、おはよっ」
 彼はいつも通りの笑顔だ。いつもはどきどきしてしまうのに、今日はその笑顔を見ただけでほんの少し落ち着いた。
「行こっか」
「うん」
「おーおー、朝から熱いな」
「お兄ちゃんうるさい」
「そう言う太一さんはマンネリですか?」
「んな訳あるか」
 兄のからかいも今の彼女には緊張を解そうとしてくれているような気がしてほっとする。彼の来訪を待っていた時より幾分穏やかな気持ちで彼女は家を出た。

「ヒカリちゃんって、意外と緊張するタイプなんだね」
「普段はそこまでしないんだけど、主役なんて初めてだもん。タケル君は平気なの?」
「多少はするけど、ヒカリちゃんと一緒だから大丈夫だよ」
「女の子みたいね」
「どこが?」
「セリフが」
 今日は学芸会でふたりは「シンデレラ」の主役を演じることになっている。ヒロインであることもそうだが、好きな男の子が相手役だということにヒカリはことさら緊張していた。
「もし失敗したり、セリフ忘れたりしても大丈夫だよ。僕がフォローするから」
「うん……ありがとう」
「こういう時はかっこいいとか言ってほしいんだけど」
「タケル君はいつもかっこいいわよ」
 不意打ちだったのか、タケルの顔が赤く染まる。
「タケル君? もしかして、照れてるの?」
「……反則。いつもはそんなこと言わないくせに」
 ぼそりと呟くと、彼はヒカリの手を強く握って足を速めた。

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