story
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 最近、太一の様子が少しおかしい。いや、おかしいというのは少々語弊がある。不機嫌そうにこちらを見つめることがあるのだ。その様子は怒っているというより、拗ねているという方が近いように思う。喧嘩をした覚えはないし、機嫌を損ねるようなことをしてもいない……はずだ。

「そんなに気になるなら、直接聞けばいいいだろ?」
 呆れた口調のヤマトに同意はする。男同士なら自分の知らない話も知っているかと思って相談したのだが。
「まあ、そうなんだけど……太一、私のことで何か言ってなかった?」
「なんにも」
 心当たりがない上に、身近な人も知らないとなれば空に残された選択肢はひとつしかなかった。

 連休を利用してお台場に遊びに来たタケルが会いたがっているからと、その日は久しぶりに8人が揃った。時折太一に目を向けても、特に変わった様子は見られなかった。兄らしくヒカリやタケルを気に掛けてはいるが、空と目が合っても拗ねた表情はしていない。
「太一、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
 気を利かせてヤマトたちがふたりきりにしてくれた時を見計らい、思い切って最近気になっていたことを聞いてみた。
「あー、それな……」
 赤らんだ頬をぽりぽり掻きながら、太一はぽつりと呟いた。
「髪留め、着けてくれてなかっただろ……」
「えっ?」
「着ける着けないは空の自由だけど、毎日会ってんのにちっとも着けてくれねぇから……」
「だって、大事なものじゃない」
「へ……?」
「大事な髪留めだから、落としたり汚したりしないように取っておいたの!」
 言いながら頬に熱を感じて、空は顔を背けた。それくらい言ってくれればいいのに、どっと疲れた気さえする。
「なんだ、それでか」
 ほっとしたような、申し訳なさそうな笑みを浮かべながら、「ごめんな」と軽く髪に触れる太一。
「大事にしてくれて嬉しいけど、もっと使ってほしい」
「うん……」
 照れながらも手を繋いだふたりが、この後仲間たちにからかわれたのは言うまでもない。
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