放課後の教室で
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 手の中の包みに目を落としては溜め息を吐き、視線を外す。いっそ捨ててしまえればすっきりするだろうに、やっぱり贈りたい気持ちがあって。堂々巡りのまま時間だけが過ぎていく。
 本来ならこんなに迷うことはないのだと思う。優しい彼のことだ、きっとはにかんだ笑顔を見せて受け取ってくれるだろう。それなのに樹莉がずるずると先延ばしにしたせいで、もう夕方になってしまった。
 またひとつ溜め息が零れる。たかがチョコレートも渡せないほど臆病な自分に嫌気が差す。いつの頃からかほのかな想いを抱いて、でもその想いが却ってふたりの間になんとも言えない距離を作っていた。
「あ……」
 下校時刻を告げる放送が樹莉を思考の海から掬い上げる。彼の家を訪ねるという方法も残っているのに、逢いたい気持ちよりも躊躇いの方が強く出て、結局彼の机の中に包みを押し込んだ。


 ほんの少しだけ、期待していた。お菓子でもそうでなくても、あの子が何かくれるんじゃないかとそわそわしながら1日を過ごした。
 そんなタカトの淡い期待も虚しく、何もないまま夕暮れ時を迎えていた。落ち着きのなさが普段はしない忘れ物へと繋がり、溜め息を吐きながら学校へと引き返す。
(……誰かにあげたのかな?)
 できれば他の男子にはあげてほしくないのだけど。重い足を引きずるように階段を上り、教室の引き戸を開ける。
「え……?」
 タカトが教室に入るのと入れ違いに、反対側の扉から出て行く女の子の姿がちらりと見えた。
「……加藤、さん?」
 こんな時間まで何をしていたのだろう。友達が一緒ならまだしも、ひとりで放課後の教室に残るような子ではないはずだ。誰かと喧嘩でもしたのか、あるいは何か用事があったのだろうか。
 追い付いたら声を掛けてみようと考えつつ、机の中を探る。明らかに教科書やノートではない感触が手に伝わり、恐る恐る引っ張り出した。
 手作りらしいチョコレートの包みだった。
(これ、加藤さんが?)
 贈り主が彼女だと断定はできないが、可能性は高い。期待と不安がせめぎ合い、どうしていいかわからなくなる。
 逡巡していたタカトが漸く我に返ったのは、見回りの先生に声をかけられた時だった。
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